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新着情報
住まいの本質:第2話「日本の住宅の現状」
更新日:2020/8/20
今回の本橋コラムは、日本の住宅の現状についてお話します。
スウェーデンで見た 築90年〝普通〟の住宅
状況を俯瞰して把握するために、まず海外の事例をご紹介しましょう。
以前、私がスウェーデンのダーラナ地方を仕事で訪れた際、サッシメーカーの職人さんの新居にお招きいただきました。20代後半の新婚のご夫婦です。 中古住宅を購入後にリフォームしたお家で、内装デザインは奥様自らがコーディネート。柱や梁など、味わいの増した古いものは残しつつ、設備を一新しキッチン周りは、さすがの北欧IKEAで統一していました(笑)。とてもおしゃれな空間でした。
感嘆していたところ、建物の築年数を聞いてびっくり。
「90年!」だそうです。
内装はもとより外観もリフォームされていたので、まさか100年近いとは思いませんでした。 この家がなにか特別な文化財というわけではありません。町なかにあふれている、ごく普通の住宅です。
スウェーデンでは、住み替えといえば中古住宅を買うのが一般的。新築住宅は少数派だと聞きました。新築時よりも価値が上がっているとみなされ、中古の方が高値で取引されるケースも少なくありません。 住宅が生活の場であると同時に〝資産〟として受け継がれているのです。 国によって違いはありますが、欧米ではこうした住文化が根づいています。
例えば2013年のデータによると、中古住宅流通の割合が米国は83.1%、イギリスは87.0%、フランスは68.4%となっています(国土交通省「既存住宅流通を取り巻く状況と活性化に向けた取り組み」より)。
翻って日本では、住まいの購入となると多くの人が新築を連想するのではないでしょうか。
実際に前述の統計によると、日本における中古住宅流通の割合は14.7%。建てては30年程度で壊し、また新たに住宅を供給するスクラップ&ビルドの慣習が、いまも続いているということです。
一方では、少子高齢化の進展も相まって空き家が増え、その数は846万戸(2018年)にも上り社会問題化しています。
こうした実態を踏まえて、国は中古住宅の購入やリフォームを政策的に支援。民間でも中古・リフォーム市場活性化の気運が盛り上がっており、その市場規模は着実に拡大してきています。
私もこうした潮流には期待していますし、いずれ欧米のような住文化が根づいたら理想的と考えています。ただし、見過ごせない問題が発生しているとも認識しています。
資産価値が下落していく日本の住宅
日本の住宅の多くは、購入した瞬間から資産価値が下落していき、築20年程度で当初の10~15%にまで落ちてしまいます。
市場価格として新築価格を維持することができていません。これは、日本と欧米とで住宅ローンの仕組みが異なることに起因しています。
欧米では住宅を担保とするローンが主流。購入者(債務者)がローン返済不能に陥ったとき、担保とした住宅を差し押さえてローンを回収する仕組みで、購入者が差し押さえに応じた段階で債務は帳消しになります。このローンが成立する前提は、差し押さえた住宅の売却によってローンを回収できることであり、そのためには住宅の資産価値が維持・上昇する必要があります。
だから欧米では、資産価値を意識した住宅づくりが行われるのです。
一方で日本は、購入者の信用を主な担保とした住宅ローンが主流。住宅にも抵当権が設定されますが、返済不能時にそれを売却しても債務が残る場合、購入者はその返済義務を負い続けることになります。この仕組みだと、住宅の資産価値が主な担保として想定されていないので、新築時に後々まで資産価値が維持・上昇するものをつくろうというインセンティブが働きづらく、結果的に大半の住宅の資産価値が購入後から下落していくという構図につながっています。
資産価値の低さと連動して、生活の場としての居住性能も決して高いとは言えません。このような価値も性能も低いままの住宅が、日本ではほぼそのまま、中古市場で流通しているケースが多いように感じます。
これが私の問題意識です。
最近よく見聞きする、古家のリノベーション。つい先日も身近なところで、工務店主催のイベントが開かれていました。
低予算や〝住まい手参加型〟をうたい文句に、古い空き家を購入して内装を自由に仕上げることが出来る、とする内容です。 そのイベントでも、若い夫婦が自分たちで床を張り替え、室内の壁を手作業で塗っていました。
自分好みの内装を実現できること自体は、住まいへの愛着もわくでしょうし素晴らしいと思います。スウェーデンで訪れたお宅も本当に素敵でした。
しかし先述したように、欧米では住宅が資産であり、良質な住宅ストックが豊富にあるからこそ中古住宅流通が盛んなのです。
残念ながら現在の日本はそうではありません。
「安全」が最優先 リフォームで強度確保を
空き家を含む中古住宅の流通に際しては、まず安全性を最優先にして骨組みの強度を確保し、居住性能を引き上げるリフォームを行う。将来的な転売も視野に入れ、その記録である住宅履歴をきちんと残す。
コストパフォーマンスなどの面からそうしたリフォームに耐えられないような古家は、再生ではなく除却の方策を探る。 そして今後新たに建てる住宅は、性能の担保された資産価値のあるものに限定する――。
これが、本来あるべき日本の住宅市場への道筋ではないでしょうか。
それをたどるための具体的な方策を、既に国が示しています。
2009年に施行された長期優良住宅認定制度です。
長期優良住宅とは、大きく
A,長期に使用するための構造および設備を有している
B,居住環境などへ配慮している
C,一定面積以上の住戸面積を有している
D,維持保全の期間・方法を定めている
といった措置を講じた住宅のこと。所管行政庁に申請して認定されます。
A,の「長期に使用するための構造および設備を有している」とは、具体的には耐震性・劣化対策・省エネ性・維持管理のしやすさ、可変性、バリアフリー性――の6つが基準。
これに、維持保全計画に沿って実施していく点検・調査・修繕などの内容を記録し保存する履歴情報を組み合わせて、資産価値を担保する仕組みです。
取り組みは任意ですが、理想の住宅市場を最短距離で実現するために、私は長期優良住宅の企画・施工を新築住宅の標準とすることが望ましいと考えています。実際に当機構を通じてそう提案しており、会員のうち9割以上の工務店がそれを実践しています。
長期優良住宅の累計認定戸数は113万2284戸(2020年3月末時点)。
順調に増えてはいますが、年度単位でみると、2019年度の認定戸数は10万7295戸で同年度の新築住宅全体のうち3割に届いていません(2019年度新設住宅着工戸数のうち、持ち家・分譲住宅の合計戸数との比較)。国も、長期優良住宅に認定されると所得税などの特例措置や地震保険料の割引、住宅ローンの金利引き下げなどが受けられるメリットを設けて普及に力を入れていますが、現実は厳しいようです。
「面倒くさい」の思考、脱却しよう
私も、これまで長期優良住宅のお施主様への提案を工務店などに働きかける中で、その難しさを実感してきました。 あえて率直に言いますが、芳しくない反応が少なくありませんでした。 特に多いのが「面倒くさい」という設計者や工務店からの返答。
誰に向けて仕事をしているのか、を如実に表している言葉だと思います。
その思考ではダメなのです。
戦後、高度経済成長期を経て日本は物質的には非常に豊かになりました。
モノが何でもそろう今、そしてこれからは、精神的な”心の豊かさ”が一層重視されていくでしょう。一人ひとりが肉体的・経済的・そして精神的に健康であることが大切、ということです。個人レベルでは、そうした傾向が既に加速していると感じています。
今後は住宅産業・建築業界としても、その方向に変わっていく必要があります。
長期にわたるお施主様の幸せを念頭に、仕事をしましょう。
今回、日本には良質な住宅ストックが少ないという主旨のことを述べてきました。
ただし、それはあくまで〝現在の〟日本です。
日本の建築は古来、世界最高水準でした。法隆寺などの伝統文化財が1000年以上の時を経て現存し、世界遺産に登録されていることがその証拠です。また地方に行けば、古民家と称される名もなき住宅が、100年以上受け継がれている例も少なくありません。建築先進国としての技術レベルと誇りを必ず取り戻せる、と私は確信しています。
第1話「豊かに暮らせる家を造ろう」
第3話「長期優良住宅が住宅建築の標準に」
第4話「日本の山・木材の現状①」
第5話「日本の山・木材の現状②」
一般社団法人建設業総合支援機構
本橋秀之